映画鑑賞記
                           
                             

                                   
                               



                            
少年H鑑賞記



 夏休み初日の812日に、

ららぽーと横浜の東宝シネマズで映画「少年H」を鑑賞した。


 この日も朝から暑かったが、

冷房の利いたショッピングモールは大勢の人で賑わっていた。

 本作は、妹尾河童(せのうかっぱ)の自伝的小説「少年H」が原作。

1997年に刊行されたが上下巻合わせて340万部以上が売れている。

題名から子供向けの作品かと思ったが、

作者自身の体験をもとに昭和の激動を描いたもので、

とても見応えがあった。

 「H」は、作者・妹尾肇(吉岡竜輝)のイニシャルだ。

肇は、神戸三ノ宮で洋服の仕立屋を営む、

父親・盛夫(水谷豊)、母親・敏子(伊藤蘭)、

妹・好子(花田優里音)とともに4人で暮らしている。

一家はクリスチャンでもあり、日曜日はそろって教会に行く。


 肇は小学生。

絵のうまい快活な子供だ。

自分の意見をはっきり言うため、

友達とぶつかることもしばしば。

着ているセーターには「H」の文字が織り込んであり、

学校では「H」と呼ばれている。

 時は昭和初期。

貧しいながらも平和な日々を送っていた家族に、

思いもしない試練がやってくる。

それは昭和16年のアメリカとの開戦がきっかけだった。

廻りでは野球や宗教など敵国から伝わったものへの徹底的な監視と排除が強まる。


 近所のうどんやに住み込みで働いていた青年は、

自転車に乗り「風の中の~♪」と鼻歌を歌いながら毎日配達をしていた。

いつもその歌を聞いていた肇はいつのまにか覚えてしまう。

「この歌大好きや!」と言うと、

「そんなに好きやったらレコード聞かせてやろか。
あとでこっそりおいで」と青年。

大喜びした肇は、銭湯に行くふりをして青年の部屋に。

そこには蓄音器があった。

うっとりしてレコードを聴く肇。

次の日もその次の日も。


 ある時、別の青年がその部屋を訪れる。

いつものように肇が声をかけると、

青年は「今日はダメ。当分の間はレコード聞かせるのは無理やから、
立ち寄らんように」と言うのだ。

「わかった。また聞かせてや。約束やで」と肇。

しかし、その日は二度と来る事はなかった。

青年は政治犯として警察に捕まってしまったのだ。


 家族が通う教会で牧師をしていたアメリカ人が、

役目を終えアメリカに帰国する。

後日、家族に絵ハガキを送ってきた。

そこにはそびえ立つエンパイアステートビルディングの絵が。

「こんなすごい国と戦争して勝てるわけないよね」、

そうつぶやく肇を盛夫はたしなめる。

「そんなこと外でいうたらあかんよ。
国賊扱いですぐに連れて行かれるよ。今は辛抱の時や。
戦争はすぐ終わる。」と。


 ある日肇は仲の良かった同級生に、

自慢げに絵ハガキを見せる。

それが大変なことに・・・・。


 学校に行くと机には白いチョークでスパイの落書きがしてあった。

「誰がしたんや」と大声で叫ぶが誰も答えない。

翌日も同様な落書きが。

いったい誰がなんのために・・・。

そして友達がそっと教えてくれた。

「おまえんとこはアメリカ人から手紙をもらったそうやな。
おまえの親父はアメリカのスパイやと学校中でうわさになってるんや」

やがて、父親の盛夫がスパイ容疑で警察に連れて行かれる。

そこで待っていたものは拷問。


 数日後、やつれた顔で自宅にもどった盛夫の手は、

真っ赤に腫れあがっていた。

痛みをこらえながら「絵葉書を出してくれ」と頼む。

これを見せて、大したものではないことを警察に説明に行ってくるというのだ。

いきどおる肇。

きっとあいつがばらしたに違いない。

盛夫は肇を諭す。

「怒ったらあかん。逆の立場やったらお前も同じことをしたはずや。
こんなことになって本人も苦しんでるはずやで」

「それより、自分にもしものことがあったら、
お母ちゃんと妹をしっかり守ってや」・・・・。


 肇は海岸でうずくまっている友達を見つける。

「ごめんな。絵ハガキみせた僕が悪かった。
おまえとはいつまでも友達や」と肇。

友達は泣きながら「おまえはいつも一言多い。

おれはいつも友達や」と。

 
 一方、新聞には日本軍の大勝利を告げる文字がおどるが、

実態は敗戦濃厚になっていた。

国民は誰もそのことを知らされていなかったのだ。

そして本土空襲が始まり、上空にはB29が飛び交う。

ある日、空襲警報が鳴り響いた。

ほどなく焼夷弾の嵐。

またたく間に三ノ宮の街は火の海に。


 父は消防署の職員として懸命な消防活動を行う。

肇は、焼け落ちる家から父の大事にしていたミシンを運び出す。

そして火の中を母親を守りながら必死で逃げる。

妹はすでに疎開していて無事だった。

その後、4人で避難所生活に入る。

働く意欲も失い呆然とする盛夫。

そんな姿を見て肇は激怒する。

「いったいこの戦争はなんやったや。
説明してくれえや。
いつも僕に教えてくれてたやないか。
なんで黙ってるんや」と罵声を浴びせる。

 
 肇は避難所を飛び出し自殺を図る。

しかし、結局は死ねずに戻ってきた。

その後中学校に進学するが、

厳しい軍事教練が待っていた。

教官から受ける暴力。

泥まみれになりながらの射撃訓練。

しかし、少年兵として出撃を覚悟していた肇に、

ある日衝撃が走る。

それはラジオから流れる天皇の玉音放送だった・・・・。

 
 本作は戦争の愚かさを訴えると同時に、

庶民のたくましさも映し出している。

特に肇役や好子役の子役たちの演技が、

昭和初期そのものといった感じだった。

少々老けたが蘭ちゃんの演技も見どころだ。





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