映画鑑賞記
                           
                             

                                   
                               



                        
 深夜食堂鑑賞記




 1月31日に、TOHOシネマズららぽーと横浜にて映画「深夜食堂」を鑑賞した。

原作はビッグコミック連載の漫画作品(安倍夜郎)。

主役の小林薫が「一話30分なので、まさか映画化されるとは思っていなかった」

と、コメントしているように、

プロデューサーの熱意が実を結んだ作品だ。

監督・脚本は松岡錠司。

映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(鑑賞記でも書いた)

で、日本アカデミー賞を受賞した。

2009年からテレビの深夜番組でも放送された(見たことは無いが)。

一話30分完結のドラマで、サブタイトルに料理名が付く。

ドラマを見ると、あまりにもおいしそうな料理が出てきて、

食欲をそそるため要注意ということだ(深夜なので)。

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 深夜食堂は、新宿花園界隈の路地裏にある古い食堂「めしや」。

のれんには「めしや」と書いているが、人は「深夜食堂」と呼んでいる。

店主(小林薫)は、顔に傷があるが、経歴は不明。

客の事情に深く立ち入ることは無く、

絶妙の距離感で聞き役になっている。

深夜12時から朝7時まで営業し、

メニューは基本、豚汁定食とビールと、酒だけ。

「あとは勝手に注文してくれりゃあ、出来るもんなら作るよ。

ってぇのが俺の営業方針さ」のセリフどおり、いろんな料理が登場する。

そんなわけで、深夜営業の割には、常連客が絶えないのだ。

ストーリは、「ナポリタン」、「とろろご飯」、

「カレーライス」といったサブタイトルごとに展開される完結型だが、

最初と最後はつながっている。

そこはコミックやテレビドラマとは異なるところだ。

場面は、いつもの常連客がやってきて、

お気に入りのメニューを注文するところから始まる。


 ゲイ歴48年の小寿々、剣崎組の幹部で地回りのヤクザ・剣崎竜とその弟分・ゲン、

「新宿ニューアート」の看板ストリッパー・マリリン松嶋、

「新宿ニューアート」の常連・忠さん(不破万作)など、かなり異色な客層だ。

話が盛り上がってきた頃、

カウンターの端の椅子に妙な風呂敷包みがあるのを見つける。

開いてみると骨壷が入っていた。

いぶかしがる客達。

「よくよく理由があってのことだろう」と、店主。

一旦警察に預けるが、いつか持ち主が取りに来るのではと、

店主が自宅で預かることになった。

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■ナポリタン

 川島たまこ(高岡早紀)は愛人を亡くしたばかりの三十路女。

遺産を残してくれるはずの愛人が、

たまこには一切遺してくれないことがわかった。

落胆の中「めしや」にやって来た。

注文したのは「ナポリタン」。

卵を流し込んだ上にナポリタンが乗っている。

店主に愚痴を聞いてもらっていると、

たまたま隣に座っていた風采のあがらない安月給のサラリーマン・

西田はじめ(柄本時生)と意気投合する。

西田の趣味は城のプラモデル作り。

二人はその後、一緒に住むようになっていく。

幸せいっぱいに見えた時、愛人の遺産が入ることになった。

一気に裕福になったたまこは、態度を豹変。

ワインを買ってきて別れをつげるようとする。

「お別れの乾杯をしよう!」というたまこに、

プラモデルをいじっていたはじめは気が動揺する。

「あなたは結局、お金がめあてだったんですか?」

「あなたは人生をしらなすぎる」と、

作りかけのプラモデルを持ちあげ、上から落とすたまこ。

プラモデルはばらばらに・・・。

うろたえるはじめをしり目にさっそうと出て行くたまこ。

数日後、ゴージャスないでたちで、たまこが「めしや」に入ってきた。

ナポリタンを頼むが、

常連客の忠さん、“お茶漬けシスターズ”こと、

独身OL3人組(須藤理彩、小林麻子、吉本菜穂子)から非難を浴び、

「私の来るところではなさそうね」と食べずに帰って行った・・・。


■とろろご飯

 栗山みちる(田部美華子)は、新潟親不知の出身の若い娘だ。

親不知では料理人をしていたが、事情があって上京。

お金がなくなり、ジムに忍び込み無料のドリンクを何杯も飲んだり、

公園の水をがぶ飲みしていたが、とうとう空腹に耐えきれず、

「めしや」にやってきた。

次から次へと注文し、たいらげる。

最後はとろろご飯。

店主の手際良い調理に、見ている方も食べたくなる。

「はい、おまち!」と鍋に入ったとろろご飯を差し出そうとすると、

娘がいない。

結局、無銭飲食だった。

後日、お詫びをしようとみちるが戻ってきた。

お金がないので働いて返すという。

早速、包丁を研ぎ始めた。

最近、腕の腱鞘炎をわずらって、

調理に支障を来たすようになっていた店主は、

腱鞘炎が治るまでなら店の2階に住み込みで働いても良いと許可する。

まずは風呂に入ってこいと、汗臭いみちるに風呂代を渡す。

その後、店の2階に寝泊まりしながら手伝いを始めた。

店主とともに八百屋に買い出しにいく。

そこで、みちるが糸かぼちゃを見つけ、ひとつ買っていく。

糸かぼちゃとは、茹でると果肉が糸状にほぐれるキンシウリのこと。

新潟の祖母に習ったという糸かぼちゃの酢のものを自ら作り、

客に試食させると、これが大そう評判だった。

料理が上手で、朴訥としたみちるは、すぐに、常連客になじんでいく。

 ある日、めしやに長谷川タダオ(渋川清彦)という男が現れた。

タダオは、みちるが親不知の居酒屋で働いていたときに知り合った男で、

おいしい話で彼女の貯金をだまし取ったのだ。

みちるは男から別れるために上京したのだが、

タダオはみちるを捜し出し、故郷に連れ帰ろうとする。

顔色を変えるみちる。

連日ストーカーのようにやってくるタダオ。

そんなみちるを守ろうと、

近くのよもぎ町交番に勤務する警官・小暮(オダギリジョー)がやってきた。

小暮は飄々として捕らえどころがないが、

マスターとは気が合い、"めしや"で厄介事が起これば、うまく仲介してくれる。

みちるとタダオがトラブルになっているのを機転を利かせ、

「自分はみちるの恋人で、近々結婚する」という。

目配せする小暮。

即興で婚約者の演技をするみちる。

肩を落として帰っていくタダオ・・・・。

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 店主の腱鞘炎が治ってきたため、みちるが店をやめる日が近づいてきた。

「お世話になりました。約束どおりお店をやめます」と告げるみちる。

「うん、でもあわてることはないよ」と店主。

「では気持ちを整理したいので一週間下さい」とみちる。

最後の仕事に頑張っていた頃、

常連客の1人、塙千恵子(余貴美子)が、ぬか床を持ってやってきた。

めしやのぬか床は千恵子自慢のぬか床を足したものなのだ。

知恵子は、新橋の老舗料亭「ほおずき」の女将をやっており、

人を見る目は確かだった。

みちるの腕を見込んだ知恵子は、店の外に呼び出した。

「よかったら家の店で働かない?」とスカウトする。

「ぜひお願いします」と喜ぶみちる。

そして「女将さんは店主のことが好きなんですか」と質問する。

図星を突かれ、扇子で顔を隠して照れる知恵子。

知恵子は店主に好意を持っていた。

実は、知恵子がみちるを誘ったのは、多少の嫉妬心もあったからだ。

 そして、みちるが店を辞める日、

店主が心づくしのとろろご飯を作ってくれた。

おいしそうにとろろご飯を食べるみちる・・・。

数日後、みちるは知恵子の料亭で働き始めた。

ある時、知恵子がハガキを持ってやってきた。

見ると新潟の祖母からのものだった。

「私のことは心配しないで、女将さんに迷惑をかけないようしっかり頑張って」

というものだった。

涙ぐむみちる。

祖母に育てられたみちるは、

年老いた祖母を残して上京したことが気がかりだったのだ。

祖母の励ましを胸に、気を引き締めみちる・・・・。


■カレーライス

 杉田あけみ(菊地亜希子)はOL。

休日はボランティア活動をしており、福島の被災地に通っていた。

ある時、バスガイドの足立サヤ(平田薫)とめしやにやってくる。

サヤもボランティア活動をしており、

福島ではあけみに何かと世話になり、先輩ボランティアとして尊敬している。

あけみが「もうボランティアには行けない」と打ち明けた。

実は、被災地で世話をしていた男性・大石謙三(筒井道隆)にプロポーズを受け、

戸惑っていたのだ。

謙三は津波で妻を亡くし、誰にも心を開かなかったのだが、

あけみの熱心な活動に心をひかれてしまった。

思いあまった謙三は、とうとう上京し、

めしやに日参しては、あけみに会おうとする。

見かねた店主が諭そうとするが「あんたに何が分かる!」と逆切れする謙三。

「わかった、これ以上は深入りしねぇ」と答える店主。

サヤは「会って、はっきり断るべき」とあけみに提案し、

宣言の場を設定する。

二人が会うことになったホテルのレストランにやってきたあけみが、

「今日を最後にしてほしい」と告げる。

「時間をかければ気持ちがかわるかも」と謙三。

話は決裂し、席を立つあけみ。

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 めしやでやけ酒を飲んでいた謙三のもとに、福島の仲間が連れ戻しにやってきた。

「いつまでそんなことやってんだ。亡くなった奥さんが悲しむぞ」と。

「うるさい。ほっといてくれ」と怒って店を出て行く謙三。

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 謙三がまた、めしやにやってきた。

カウンターには骨壷が。

一年が過ぎ、誰も引き取りに来なかったため、お寺に納骨するためだ。

常連客の皆が手を合わせる。

謙三が、突然、飲んでいた酒を骨壷にかける。

怒る常連客たち。

謙三が感極まって、津波で流された妻のことを語りだした。

散々探しまくって、

結局見つからなかった妻をどうしても死んだと認められなかったが、

最後は空の骨壷を用意し葬ることで自分を諦めさせたという。

「この骨壷にもそんな人生の深い思いが込められているはず」だと、

ふたをあけるとそこには砂しか入っていなかった。

目を点にする店主や常連客たち。

真相がわからないまま寺にあずかってもらうことになった・・・。

自分の過去を告白し落ち込む謙三に、店主はカレーライスを差し出す。

怪訝そうにカレーライスをほお張る謙三。

「これは、あけみちゃんが福島にボランティアに行く際に、

みんなに喜んでもらいたいので、

作り方を教えてほしいというから教えてあげたカレーライスだ」。

被災地で食べたカレーライスの味を思い出す謙三。

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 一方、ある時、あけみも自分の過去を店主に打ち明ける。

「自分がボランティアに行くことになったのは、

実は会社の上司と不倫をしていたから」と。

結局ダメになり「現実から逃避したくて被災地に通っていた」。

「でも皆さんが本当に感謝してくれ、嬉しかった」。

正直に語るあけみに、微笑みながらやさしく耳を傾ける店主・・・。

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謙三が宿泊していたホテルにあけみがやってきた。

部屋に入り、飲めない酒を飲み、不満をぶつける。

「被災者とボランティアの関係のままで良かった。

あなたのおかげで被災地に行けなくなった」と・・・。

謙三が気が付くと朝になっていた。

横にはあけみが寝ている。

「いったい俺は何をやってんだ」と我に帰る。

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 数日後、福島行きのバスに乗り込む謙三。

その時、あけみがお別れにやってきた。

驚きつつも喜ぶ謙三が、

「またボランティアにきてほしい。みんな待ってるから」と懇願する。

笑顔でうなずくあけみ・・・・。

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■ラストストーリ

 いつものように常連客でにぎわうめしや。

そこに上品そうな女性・塚口街子(田中裕子)が現れた。

聞くと骨壷を置いていったのは自分だという。

死んだ亭主が高校球児で、

唯一遺していった財産が骨壷に入れた甲子園の砂だというのだ。

たまたま立ち寄ったこの店がとても良かったので置いていった。

亭主の思い出をひとしきり語ったあと、

店主に詫びながら骨壷を返してくれと言う。

お寺に預けてしまったため「そっ、それが・・・」と口ごもる店主。

 後日、骨壷を受け取り、意気揚々と帰っていく街子。

途中、警官・小暮が交番前で、州崎飯店の女店員・つたえと抱き合っていた。

つたえは小暮を慕っていたのだ。

出前に行っては、いつも、食べ終わるまで外で待っている。

「おさかんねぇ」と街子。

「彼女が自分の臭いをかぎたいというので・・・」と飄々と答える小暮。

3つのサブストーリと、それらを貫く骨壷の話。

コミックやテレビドラマでは、展開されなかった構成に、

劇場版ならではの面白さが込められた作品だった。






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