映画鑑賞記
                           
                             

                                   
                               



                
  「起終点駅 ターミナル」鑑賞記




 
11月7日(土)にセンター北のイオンシネマ港北ニュータウンで、

映画「起終点駅 ターミナル」を鑑賞した。

封切り日だったにもかかわらず観客は6人。

19:20からの上映ということを割り引いても寂しい客数だ。

しかし、それに反して内容はとても良かった。


 「起終点駅」とは聞きなれない言葉だが、

「たどりついた終着駅が、明日は人生の始発駅になる」という意味。

原作は直木賞作家・桜木紫乃の同名小説。

監督は篠原鉄雄。

主演は佐藤浩市、本田翼。

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 シーンは白雪に埋まる釧路駅から始まる。

プラットホームには、コートを羽織った男が、雪の舞う景色を呆然と見つめていた・・・。


 時は25年前へ。

男は北海道旭川の地方裁判所で裁判官として勤務する鷲田完治(佐藤浩市)。

東京に妻子を残して単身赴任中だ。

ある裁判で覚せい剤所持の被告人として現れたのは、

学生時代に付き合っていた結城冴子(尾野真千子)だった。

判決文を読み上げようとしていた完治は、突然の再開に驚いて目を丸くする。

二人はかつて学生運動で闘った同志だ。

恋人でもあった二人は同居。

冴子は司法試験を目指していた完治を水商売をして支えていた。

そして完治が弱気になった時には「戦え、鷲田完治」と励ますのだ。

やがて完治は司法試験に合格する。

同時に冴子も突然姿を消してしまう。

テーブルには万年筆とメッセージカードが置いてあった・・・。

法廷で再開したのはそれから10年後だった。

判決は執行猶予。

その後、完治は冴子が働くスナックに出入りするようになる。

やがて二人は深い中に。

急激に冴子にのめり込んでいく完治。

そんな頃転勤の辞令が下りた。

2年の勤務を終えて東京に戻ることになったのだ。

しかし、完治は何もかも捨てて「どっかの小さな町で一緒になろう」と告げる。

旭川を出ていく二人。

冴子の提案で怪しまれないよう離れて歩くことにした。

駅のプラットホームで電車を待つ。

あたりは雪が降り積もっている。

そこへ電車が入ってきた。

冴子はさみしそうな表情で完治を見つめる。

完治も冴子を見る。

そして倒れるように電車に飛び込む冴子・・・。

顔面蒼白になりうろたえる完治。

電車が止まり駅員が駆け寄ってきた。

あまりのショックで動けない完治。

怖さの挙句、完治は冴子を捨てて、

プラットホームの階段をよろよろと登って行った・・・。


 時は現在に戻る。

完治は釧路で国選弁護士としてひっそりと生きていた。

あたかも愛した女性を死に追いやった自分に罰を与えるように。

完治は平屋建てのアパートに自宅兼事務所を開設していた。

料理も洗濯も身の回りのことすべてを自分でやる。

料理は新聞や冊子からレシピをスクラップするほどだ。

仕事を受けると釧路地方裁判所まで歩いていく。

帰りはスーパーマーケットの精肉店に寄って鶏肉を買うのが日課だ。

ちょくちょく自宅前の道路に黒塗りの高級車が止まっている。

車には投資会社社長の大下一龍(中村獅童)が乗っていた。

投資会社といってもヤクザの事務所で一龍はその二代目組長。

一龍は以前、障害事件で完治の弁護を受けたことがあった。

以来、顧問弁護士にならないかとしつこく誘って来るのだ。

しかし、完治は頑として受け付けない。

来るたびにきびしく一龍を追い返す。

それでも一龍とは本音を言い合える不思議な関係でもあった。

時には「惚れた女のために、裁判官をやめることができてもですか」

と、揶揄されることも。


 裁判所には新米の判事補・和田正人(森山卓士)がいた。

親程の年の差だ、完治には親しく話しかけてくる。

実は東北大学で完治の息子・恒彦と同級生だったという。

恒彦とは5歳で別れたままだった。

驚く完治。

正人は学生時代の思い出を語る。

バイトのこと、登山が好きだったこと、学食で食べたこと・・・。

恒彦は仕送りが来ると学食は一番高いAランチになったという。

当時、完治は恒彦に仕送りをしていた。

卒業と同時に元妻から、

「お世話になりました。もう仕送りも連絡も不要です」と告げられた。

その後、恒彦は司法試験を受ける。

が、失敗。

今は弁護士をあきらめ裁判所の事務官として元気に働いているという。

父を恨まずりっぱに成人してくれたことを心から喜びつつも、

完治は妻子を捨ててしまったことに強い罪悪感を持っていた。


 ある時、覚醒剤事件の被告人・椎名敦子(本田翼)の国政弁護人を引き受ける。

敦子は30才のホステスだ。

執行猶予の判決後、敦子が突然、完治の事務所を訪れた。

ある男を探してほしいという。

それは敦子の恋人・大庭誠だった。

しかし、国選弁護士の完治は、個人からの依頼は受けないと強硬に断る。

「もう帰るよう」にと告げると事務室に電話が。

それは息子の恒彦だった。

今度結婚することになったので披露宴に出席してほしい。

招待状を送ったが、返事をもらっていないので直折電話したというのだ。

いきなりの申し入れに無言になる完治。

しばらく間をおいて「今の自分は出席できる立場ではありません。

申し訳ないが出席はできません」丁重に断る。

「そうですか。とても残念です」と恒彦。

電話を切り、目を閉じる完治。

ふと見ると敦子が立っていた。

「まだいたのか」と完治。

「家は?」と聞くと、

「10年前に親元を出てしまい、

それから一度も会っていない。友達のところを転々としている」という。

かわいそうに思った完治は「飯でも食っていくか」と料理を作ってやることにした。

北海道ではザンギという、鳥のから揚げを作ってやると、

お店で食べるよりおいしいと食べた。

敦子が家族のことを聞くと、別れた妻子のことを話し出した。

息子がイクラを一粒一粒つまんでおいしそうに食べていた話など、

胸の奥底にしまっていた思い出が少しずつ蘇る。

そして孤独な者同士が少しずつ心を通わせていくのだ。

敦子が感謝しながら事務所を出ていく。

それから数日後、敦子がやってきた。

手には大きな荷物を持っている。

「お願い出来るよね」と差し出したのは大量の筋子だった。

とまどいながらも料理をする完治。

おいしそうなイクラの醤油付けが出来上がった。

さあ食べようと勧めると「私はいいから、先生が食べて」という。

ささやかな団らんが始った時、急に敦子が倒れ込む。

実は体調が悪く高熱があったのだ。

帰れる状態ではなくその日は泊めてやった。

そして入院。

ようやく回復するが、敦子は治療費が払えない。

「心配するな」と完治が支払ってやる。

感謝する敦子。

そして意を決するものがあったのか

「実家に戻ります。連れて行ってくれますか」と完治に頼んだ。

完治は敦子を車に乗せて実家があったという漁村に連れていく。

草むらの生い茂る荒れた道を進んでいくと海辺が見えた。

そこに漁師の家と思しき古家が。

「ここです」と敦子が言う。

10年振りの実家。

両親と妹がいたはずだ。

しかし、玄関には錠舞がかかっていた。

よく見ると壊れている。

こじ開けて入ると誰もいない。

荒れ果てた室内を見回すと懐かしい物が目に飛び込んでくる。

仏壇があった。

よく見ると位牌が三枚。

父、母、そして妹のものだった。

三人とも亡くなったいたのだ。

敦子の目に涙が。

完治があるものを見つける。

注射器が散乱していた。

さっきまで使用してした形跡が。

もしや敦子の恋人・大庭誠では、と直感する。

「大庭が隠れているのか?」と敦子に問い詰める。

敦子はうなずく。

そして家を出て誠を探す。

小屋があった。

漁の網具などが置いてある。

その隅にボロ雑巾のような服を着た男が。

誠だった。

完治が近寄る。

「まだ生きてるぞ」と叫ぶ。

呆然と立ち尽くす敦子。

「おい、なにやってるんだ!」と敦子をどなる。

二人して誠を車に運ぶ。

そして警察に連絡。

誠を乗せた車は警察署に向かう。

敦子の手には三人の位牌があった。

敦子が「先生、私、この人を見つけたとき、

頼むから死んでてくれって思ったんです。

もう、思わなかったことにできませんよね」と正直な心情を告げる。

ハンドルを握りながらほほえむ完治。

やがて誠は収監・・・。

完治が国選弁護人になった。

悪態をつく誠に「甘ったれるな!」と一喝。

おとなしくなった誠は「よろしくお願いします」と頭を下げる。


 完治が寝ていると玄関のベルが鳴った。

何事かと時計を見ると午前5時。

玄関には敦子立っていた。

驚く完治。

敦子が就職が決まり、これから移動するというのだ。

そして釧路駅まで車で連れて行ってほしいと。

朦朧としながらも服を着替え車を走らせる。

誠との関係を立った敦子はすがすがしかった。

車が駅に着く。

別れ間際に敦子が完治に抱きついた。

「また来てもいいですか」と問う。

「だめだ。絶対に戻ってくるな。生きていてくればいい。生きてくれさえすれば」

と、完治。

「ありがとうございました」と感謝の言葉を告げ駅に向かう敦子。

後ろ姿を見送る完治。


 完治の自宅の隣には、人は良さそうな男性の老人が一人暮らしをしている。

老人には青果栽培を営む息子・大村真一(音尾琢真)がいた。

ちょくちょく軽トラで父親宅を訪れては、

完治に迷惑をかけていないか心配で声をかけてくれるのだ。

大雨のある日、ふと窓越しに隣を見ると老人が植え木に水を遣っていた。

心配して「大村さん!」と声をかけた。

その時、完治は老人が認知症であることに気づく。

息子からの電話があった日から、完治は毎日郵便受けをチェックするようになった。

招待状が届いていないか気にしていたのだ。

それでも届いた気配はない。

ある時、真一が申し訳なさそうに完治のところにやってきた。

手には郵便物が。

実は父親が勝手に郵便受けから抜いていたのだという。

すでに何週間も経っていた。

恒彦からの招待状だった。

部屋に戻って手紙を開ける。

結婚式は明日だった。

複雑な思いで朝食を食べる。

突然立ち上がり、冷蔵庫からイクラの瓶詰を取り出した。

ご飯にイクラをのせてかき込む。

イクラの好きだった恒彦の姿が浮かぶ。

目から涙が溢れた。

そして意を決したように礼服に着替え始めた。

もう1本あったイクラの瓶を保冷剤と一緒に袋に入れる。

表に出るとヤクザの一龍が来ていた。

ちょうど良いとばかりに完治が乗り込むと、一龍が話しかける。

「うるさい、車を出せ!」と完治。

勢いに押されて発進する。

そして釧路駅へ。

完治は車を飛び出し特急列車に乗り込んだ。

「戦え、鷲田完治」と一龍がつぶやく・・・。

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 最近、佐藤浩市主演の映画をよく見る。

はずれが無いというか、吉永小百合の域に近づいてきているようだ。




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